メルモで発行させていただいていました 携帯のメールでパチパチ仕事の合間に売っているバックナンバーのSSです。


▼生活リズム(サバ+ジャン+マルチェロ)
太陽の光は、やはり正直なところ今でも好きではない。

幼い頃から刷り込まれている経験が
今でもしっかりとこの身に染み付いているのだろう。


夏のこの時期、この太陽が燦々と大地を照らしている時間は

最近までは暗黒城の一室、
恐ろしいまでの静寂の中
人工的に作られた光の下で軽い食事を済ませ、本を読み、惰眠を貪り続けている時間だ。


周りからは異常ともいえるが
俺にとっては当たり前の様に…俺の中では規制正しい生活サイクルをすごしていた訳で、


だから逆に
俺にとっては、今のこのサンミゲルでの生活サイクルの方が異常だった訳で、


だから


「大丈夫…?サバタ。」
体に限界がきて、立ちくらみを起こし派手に倒れてしまい


こうしてベッドの中で
心配そうにジャンゴとマルチェロに看病されている始末だ。


「夏バテかな…?
サバタ君の場合はどうもそれだけが原因じゃないみたいだけれども。」

環境がガラリと変わるとやっぱり体は新しい生活リズムに合わせようと頑張るから、
無理しちゃうんだよね、
と苦笑しながらマルチェロは薬と水を用意している。

「ジャンゴ君、君はこのあとレディさんの所へいく予定なんだよね?そろそろ出発の準備を始めないと。」
マルチェロに促されたジャンゴは
チラリとこっちを見たあとに、
「今日はもう静かにしていなきゃダメだからね」
と、まるで俺がはしゃぎすぎて倒れたような言い種な言葉を吐いて、

そのまま外出の準備をはじめた。


腹が立つ。

俺が騒がしかったのではなくて
ジャンゴが無理矢理俺を買い物に付き合わせたからではないか。とジャンゴに言ってやりたかったのだが、
正直まだ意識は朦朧としている。

今の状態で口喧嘩を始めれば正直勝てるか否かは分からない。

それにだ。
やはり俺自身も正直情けないと思う。
もしここが戦場だったとしたら
間違いなく生死を左右する。そう考えると自分に腹がたってくる。


「…。」

ジャンゴが支度を整えにこの場から離れた後、
はい、どうぞ。と、マルチェロから
コップに入った茶色くて何ともいえない液体を渡される。

「…なんだコレは。」

「滋養強壮に効く薬草を溶かしたものだよ。
味は凄い難があるけれど効果は抜群だから、
飲むといい。」

何かの嫌がらせかと一瞬疑いはしたが

マルチェロはいたって真剣に
この茶色くてやや癖のある香りのする薬を俺に飲め、と促しているらしい。

…ジャンゴではないのだが…正直コレを服用するのには
ちょっとした勇気が必要だ。


「いきなり正反対のサイクルに合わせるのはやっぱり体にこうやって支障がでるから、
これから体が今の生活に馴染むまでは
毎日一杯、この薬草を煎じて飲むといいよ。」


「…大丈夫なんだろうな。色的に薬というよりは毒に近いが、これを服用しても。」


「あ…匂いが駄目かい?なんならシロップいれて味をごまかしてあげ…」
「……いい。俺はそこまでガキではない。」


「頑張るのも大事だけど君の場合は無理しすぎるのもいけないよ。自分のペースでゆっくりと。

そもそも今、サバタくんがやっているのは
絶対にしないといけない事じゃないんだし、
強制されてる事でもないんだしね。」



「……………。」



そうだ。

本当は



別に無理に街の奴らと、ジャンゴとおなじ生活サイクルに合わせる義務も必要も
どこにもないのだけれど。



敢えて、それを合わせる理由は
一体なんだと問われれば。


「興味があるから…か。」



街の人間、アイツの日常に。



「サバタくん、今なにか言ったかい?」

「…いや。空耳ではないか」


さて、
グズグズしても仕方がない。
意を決し、息をとめ、
手に持っていた茶色い液体を無理矢理喉に流し込んだ。

2007/6/15

▼金色に染まる大広場(ジャンゴ+おてんこ様)
「実はね、おてんこ様と初めて出会ったとき、凄く嬉しかったんだよ。」

昔、毎日抱いて寝るほどに大好きで
大切にしていたぬいぐるみにそっくりだったから、
と、唐突にジャンゴは口を開く。


ジャンゴの父である紅のリンゴお手製の
私の姿を形どったぬいぐるみは
なぜか幼き日のジャンゴは凄く気に入っていたらしい。

「まったくリンゴめ…私の許可もなく勝手な事を…、」

呆れると同時に
あの男に裁縫のスキルが備わっていたのかと軽い衝撃をも受ける。



いや、きっとその裁縫を教えたのはマーニなのだろう。

幼いジャンゴの為に
親二人が一緒になって
遊び道具を懸命に縫い繕う姿を思い浮かべれば
何ともいえない柔らかい感情が湧いてくる。



「ボクがものごころついた頃には
もうおてんこ様のぬいぐるみは酷くボロボロでね、
たくさん綻びを直した後があったんだ。」

ぬいぐるみといえども私と同一な姿が
ある意味残酷な仕打ちをうけみずぼらしく変わり果てていく様を思い浮かべてしまい、
少し複雑な切なさを覚えてしまう。

子供は無邪気で残酷だとはよくいったものだ。



だが、それでも

「…おてんこ様の事も
そのぬいぐるみを手に持ってお父さんから沢山聞かされたっけ。」

「お父さん自身も
そのぬいぐるみを大事にしていたんだ。
アイツにまた会いたいな。アイツにもジャンゴの事を紹介したいな…てさ。」



私が目覚めるまでの間もあの男は
息子に私の事を語り続けてくれていたのだな。




そして
最後の最後まで


その信頼を向けられていた事を

ただ、嬉しく思う。



「…で、その私にそっくりなぬいぐるみは今はどうなったんだ。」
と、尋ねてみるとジャンゴは少し気まずそうな顔になり

「…おてんこ様に見せるのが申し訳ないほどボロボロになってしまってたからね…
きっと見たら凄い怒るよおてんこ様。」

…でも今は、見せる事すら出来ないけれど、と、

ジャンゴは陸番街のあった方向に顔を向けた。








「今は感傷的になってる場合じゃないよね」

そろそろいこう。これ以上、大事なものを壊されないように、と、立ち上がり、


今まで座っていた広間を越し、サバタの待っている
螺旋の塔へと駆けていく。




「……。」 
余計な思念を振り払う。
ジャンゴのいう通り、今は感傷に浸る時ではない。
今はただ迫っている危機の事、ヨルムンガンドだけを考えようと決め、ジャンゴの後を追っていった。



一回だけ、大広場を振り返る。


ジャンゴとサバタと、
そして私に

あいつが最期の言葉を伝えた場所。





あの男から大事な息子達を任されてくれたのだから。


だからこそこれからも
私はできる限りの判断と力を持って


ジャンゴ達を
明日へと、未来へと

導き続けたいと思う。



2007/6/11

▼蒼空での月見酒 白銀+ガルム+ムスペル
幾億と同じ夜空を見続けてはいるが
ここ最近の夜空は一層美しいと感じている。

理由は余りにも単純なものだ。分かりきっている。

「たまには誰かと見上げる夜空も悪くはない…と言うことか」

白銀に輝く騎士の発した言葉は
かすかに煩わしそうに、だがどこか感慨深さが滲み出ていた。



だがこの天空の塔の最上階に佇むのはその騎士独り。
その騎士以外の者の姿は見えない。







そう、今はただ見えぬだけ。



「しかし、この調子だと
またお主達が実体を取り戻せるのは何時になるのだろうな。」

さて、まったく何時になる事やらとのんびりとした返事が戻ってくる。

実際にはそういう声は聞こえず
静寂と、たまに激しい風が吹きすさぶ音しか聞こえぬのだか。


「ガルム、ムスペルよ。」姿なき者の名を呼び


「一つお主達に問いてみたい」
姿なき者に問いをかける。




「あの暗黒少年と、
また縁があるとすれば、
今度は自分の意志で従うか否か」

姿なき者達の返答はない。



「失礼した。つまらぬ事を聞いてしまった。」



少し前にボロボロになりながらも
この最上階まで登りつめた少年がいた、
我と剣を交えたその先に
遥か昔、我が忠誠を誓った主と同じ血を感じた。

「お前達を操った者と解放した者、
我の目に狂いがなければあの二人は対極でありながら同一の存在。」


そう、
暗黒物質に魂を汚され
無理に操る事などせずとも、
本来は、そう最初から、我らは自らの意志で
あの二人の少年の力を試し、いずれは自分の意志で忠誠を誓うはずだった。





しばらくして
声なき声達は答える。

「もし、また出会うことが、あるのなら、だ。」


あの少年に対しては今までよりも少し不条理で厳しい試練を与えようではないか。

そう簡単には従わない

声にならぬ声はそう答えた。


「お前達…よほど根に持っているようだな」


当然、
長年生きてきたが
あそこまでとんでもないこき使われ方をしたのは
初めてなのでな。


「ガルムはともかく、ムスペルにまでそう腐る言い方をされるとは…」

正直な気持ち、
我は巻き込まれずにすんで良かった、と白銀の騎士は苦笑する。




―だが、


「…?」

縁があるならば
また出会い、
今度こそ、あの少年と
正式な契約を交わしたいものだ



「時期がくれば、」
我々は再び、あの二人の少年の前に姿を表すだろう。


そう、だからそれまでに

「まずは、お前達が実体を取り戻す事だ。な。」

あの暗黒少年の中に渦巻く闇が

月光仔様―太陽少年がいつか晴らしてくれることを願い、


一人の騎士と見えない二匹は蒼空の塔から、
はるか彼方にある
太陽の街を眺め続ける。


2007/6/9



▼木漏れ日の秘密の会話(リタ+ドゥラ)

「大地の巫女。」



雲もなくカラっとした天気の中、
栽培している太陽の果実の手入れをしていたリタは
突然自分の二つ名を呼ばれて
驚いたように振り返る。


「…太陽樹…様?」
そう、自分の目線の先にあるのは
太陽の恵みを受け、悠々と生い茂る御神木。

だがその大木の幹から大きく枝分かれしている所にその「少女」がちょこんと座っている。




大地の巫女―リタにはその少女に見覚えがあった。


想い人が太陽の力を取り戻すことができたあの浄化の儀、街のみんながその場で立ち会ったあの広場で
太陽の光に焼かれ浄化されたあの赤色の髪の女の子。

でもなぜ今、その女の子が自分の目の前にこうして姿を見せているのだろうか?





困惑するリタの心中を見抜いたのか赤き少女、ドゥラスロールは淡々と口を開く。
「とっくに幻影を見せる力は戻っているわ…ただあの男と顔を合わせるのが嫌なだけ」

黒兄様はあの男に浄化されてしまったんだから、と少しの寂しさと悔しさが混ざった声で呟いた。



黒きダーインと呼ばれた影はドゥラスロールにとってはとても柔らかくて心地よい闇だったのだろう。
その闇から解放された事をまだ、太陽樹はまだ少し受け入れきれていない。

「本当は今は自分と黒兄様の事で
いっぱいいっぱい…なんだけれど」

そこで一回赤い少女の幻影は俯いて口ごもり、

「あなたが飽きもせずに毎日私の体調管理をしてくれているから…
だから少しだけ、ありがとうをいいたくなったの。」

素直ではない「ありがとう」をリタに伝えた。






リタにとってその赤き少女、太陽樹からの感謝の言葉は何者にも勝る最大の賛辞。

「ありがとうございます太陽樹様、そのお言葉を頂けただけで、私は幸せでございます。」

スカートの裾を片手に持ちその少女に笑みを浮かべ深々とお辞儀をした。





「…それじゃあ…この姿を映し出すのは少し疲れるから…また少し眠るわ…」

「お疲れでしたら無理をせずお休みください。
…もしもまたお暇でしたらまたお声がけ下さいませ。
私でよければいつでも話相手にならせて頂きますわ。」


「…あなたがあの太陽少年といいムードな時でもいい?」

「…っ///!それは少し…その//;」

「……冗談よ。」

そういってクスリと微笑んで、
またね、と言って赤い少女の幻影は掻き消えた。

後に残るのは
太陽樹の木の葉が風に吹かれてなびく音だけ。



本当に跡形もなく消えてしまったのでリタは夢だったのかしら?
と一瞬考えたが微かに残った薔薇の残り香が
あの赤き少女の存在を主張し続けていた。

「…いいそびれてしまったのですが…」

リタは改めて、幹に手を置き
太陽樹に話しかける。 

「ジャンゴ様が恐がるので、毛虫は落とさないであげてくださいね?」

太陽樹からの返事はない。

聞こえていないのか聞いていないふりをしているのか。



太陽樹はただ木の葉を揺らし続けて、柔らかい木漏れ日を作り続けているだけだった。 


2007/06/08