cast:パパン一家 何かを選ぶという事は、何かを選ばないということ 生きていく中ではいくつもの取捨の選択を迫られる事があるだろう。 選んだもの、選ばなかったもの それを選んでよかったのか、それとも間違いだったのか 今でもその答えは導き出せないし そもそも答えなんてあるものかも良く判らない。 賛歌





太陽がこんなにも穏やかな光を持っているのは正直知らなかった。
陽光は大樹との相性がいいらしい。木漏れ日の下は光と影の織り成す芸術だ。

黒い帽子を深く被りなおす。
外に出るときはあの人はいつもこの帽子を渡してくれる。




ほのかに香るあの人の髪の匂い。
それだけで十分心穏やかになる事がとても不思議だった。

口元が緩む。

こんな空間、こんな時間は本当に初めてで




風が心地よい
葉の奏でる音が心地よい
優しく刺す光の線が心地よい。
あの人の髪の匂いもなにもかも心地よくて 幸せで

だけれどもその幸せの隅に引っかかるものはいつも─

「─姉さん─。」

幸せを感じた後に
どうしても訪れてしまう後ろめたさがあった。


仕方がない。その後ろめたさも後悔も全てを覚悟で
私はあの人の元に走ったのだから。







「ま、マーニ!」
「!」
ぼんやりとしていた私を現実に引き戻す
激しい泣き声とそれにぐったりとしている声。

「マ、マーニすまない、助けてくれ。どうあやしてもジャンゴが泣き止まない。」
激しく泣きながら腕のなかで暴れまわる子を落さないようにその人が戻ってきた。



愛しい人から愛しい子を預かり、

しばらくその子の背中をゆっくりポンポンとたたいてあげれば
泣き声は少しずつ収まり静かになっていく

後に残ったものはただただその母の胸にうずくまり安心しきった寝顔。

一回、二階と優しく頭をなで、
そして隣のゆりかごで眠っているもう一人の子の隣へ寝かせつけた。

「ジャンゴは結構元気があるな。危なっかしい子に育つぞ。」
「ええ、サバタの方が少しおとなしいですね。なんだかいつも寝てばっかりで。」

子育ては戦争だというが全くそのとうりだ。
とくにジャンゴはハイハイというものを覚えて
あちこち這い回り、少しも目を離せないのだ。


「あら、あなた。襟元が少し乱れてますよ。」
「あ、ああ。さんざんジャンゴに引っ張られたからな;」
「あらあら、本当に元気な子ですね」
「ヴァンパイアとの戦いより何十倍も大変だがな」
手を伸ばして彼の紅いマフラーに手をかけ乱れを直す。

「…もうお父さんなんですからね。」
「わかっている。」
「ムリはしないでくださいね」
「…ああ。」


「心配だわ、貴方は始めてであったときから行動的過ぎて危なっかしい人でしたから」
「…マ、マーニ。」
「キングとの対面の時も…なんど貴方の死を覚悟したのか…。」



当時の頃を思い出してしまう。
闇の袂の中で存在していた頃。


今でもはっきりとおもいだせる、
初めてであった時の
あの強烈な力強き赤。



「実はね、私、昔は赤の色って好きではなかったんですよ、貴方に出会うまでは」


血の色とはまた全然違ったあの色彩は
今でも私の心の中に焼きついている。





マフラーを整えてあげたけれど
だけれど、その手を話すことができなくて

「マーニ?」

「このまま…」

「…。」

「あまりにも図々しいのかもしれませんが、
できればこのまま。静かに─幸せに暮せたら、いいですね。」



私の声は少し震えていた。
それは、あまりにもどうしようもない願いで


「…そうだな。」

その赤いマフラーに顔をうずめる。
幸福な時間。

だけれどもその合間合間に訪れるのはどうしようもないほどの恐怖。



このまま、平穏にすごせるはずがない。



有り余る幸福と

少しの、だけれど、確かに強く根付いている罪悪感を

二つの感情を胸のうちにそっと秘めたまま。



「大丈夫だ、俺がいる。お前も、サバタもジャンゴも、俺が守る。」


その言葉は本当に真っ直ぐな言葉で


「…そうですね、…頼りにしています。」


だからそれだけで、こころが軽くなる。


「ああ。」












でも

だからといっても


私の罪は


いろんなものを犠牲にしてまで選んだ道は


絶対に粛清されるべき罪なのだから。


「でも、絶対に貴方一人に背負わせませんよ。私も…私と一緒に、ね?」

「…ああ。」

クスリと笑って、ゆりかごですやすやねむている双子の子らを見る



できるならこの子達にまで
私の「罪」と「罰」を受け継がれない事を       願う。










今、この空間、この時間をしっかりと焼き付けておきましょう。
これが永遠に続く事は絶対にないことは理解しているのだから

だからこそ、この時間を忘れてしまわないように。