本当は自分もとても体が重くて、だるいのだけれども、
もっと死にそうな人が真横でゴホゴホいっているから、
重い体を引きずって、台所へ、粥の準備をする。

よりにもよって、二人とも、この流行病にかかってダウンしてしまうなんて。
いったいどこから感染したんだろうか。きっとあのとき二人で遠出したときだ。
こんな事になるなら、サバタを無理に誘うんじゃなかった。

サバタになにがあったらこれはボクのせいだ。

と、どんどんと思考がネガティブな方向へと転がりながら、
涙目で水を多めに入れた鍋に日をかける。



感染してしまうといけないから。ボクらは完全に街の人たちと接触をたち、
ひたすら回復に専念しているのだけれど。
病人が病人を看病するのは、さすがに限界を感じていた。


幸いこの流行病は感染力は強いらしいが、毒性は弱いらしい、
しっかり栄養と水分をとって安静にしてさえいれば一週間でなんとか回復に向かうらしい。

だけど、サバタはともかく自分はこの病にやられてしまうだろうな。
そうなったらみんな悲しむだろうかと、どうしても気持ちが上に上がらなくて、
そんな暗いことばっかり考えてしまう。




そんな時、
コンコンと、誰かが家のドアをノックした。





「ジャンゴくん、サバタくん、
具合はどうだい?スミスさんからの連絡をうけて戻ってきたよ」と、久しぶりに聞く声。

家の扉をあけるとまず目にとびこんできたのは
色とりどりの、とても熟してて甘い香りのするたくさんのフルーツの色。
そしてその大量のフルーツをいれたバスケットを手に持って、


「今はやりの、病気にかかってとても大変そうだって連絡が入ってね、
お薬をお届けに来たよ。」


久しぶりに診るマルチェロさんの少し内気な感じの笑顔。
(それもマスクをしていたから、本当は見えなかったんだけれどね)







元気になって     cast:ジャンゴ サバタ マルチェロ


 「そのフルーツは?」

「街にもどってからここにくるまでに、渡してくれーってみんなから頼まれてね。
果物は栄養が高いから、病気の時にこそ、食べるといいんだよ」


完治したらちゃんとみんなにお礼をいうんだよっと、
そういってマルチェロさんは、台所のテーブルの上にお見舞いの品をおいて、
火をかけた鍋に向かった。

「お粥かい、消化にいいものね、
ほかにも何か作ろうか。ジャンゴくんもゆっくり寝てなよ」

そこまでしてもらわなくてもと、悪い気がしたけれど
ボクだけじゃなくて、サバタも一緒だったから、
好意に甘えることにした。

サバタの隣で横になる。
横になればずっとズキズキしていた頭の痛みも少しだけ和らいだ。




 粥を食べて、その後にマルチェロさんが持ってきてくれた粉薬を服用する。
サバタは隣で気管に入ったらしく盛大にむせている。

「昔から粉薬、好きじゃないんだよね。
粉だからいけないんだ、いっそ固めてしまえばいいと思わない?」

そんなむかしから常々おもっていることをぶつぶついいながら息を止め、
粉を咥内に入れそのまま一気にぐいっと水を飲む。




そんな様子がおかしかったのだろうか、
さっさと薬をのんでそのままそっぽ向いて寝ていたサバタが鼻で笑った。


「粉は一番早く利くからだよ。錠剤やカプセルはとけて中の薬がでてきて作用するまで時間がかかるんだ。」

そんな粉薬が二人分約二週間分。
食後に30以内に服用すること。など残りの薬の簡単な説明をうける。

「本当にお医者さんだね」

「いや、まだ研修医だからね、診察とかはできないんだよ、
今はまだ症状聞いて、薬を選ぶ事ぐらいしかできないんだ」

「…勉強はどう?」
「そこそこ順調だよ。あと5年ぐらいすれば、
自分で診察及び病院を始められる許可ももらえるかも、っていうところかな。」




「やっぱり、大変?」



「そうだね…やっぱりつらい物をみないと、いけないときも…あるね。」


つらいもの、それが何かは口にしなかったけれど、
それでも知っていたうえで、マルチェロさんは選んだのだ、この道を。

「それじゃ、長い間不在だった僕の家も、
蜘蛛の巣はってたりと大変な事になってるから掃除しに帰るね。また様子を見に来るよ。」



「回復したら、みんなにあいたいな」
「みんなもあいたがってるよ。はやく治るといいね」
「うん」

みんなとあえたらなんて言おうかな。
やっぱり「ありがとう」、かな。





































































もうどっぷり日が暮れている。
そのままゆっくりとこの街の、長い間留守にしていた自分の家へと向かう。
掃除はする気力なんてない。正直、疲れていた。

「何かの命を守るために、
何かの命を、実験につかわないといけない…か。」


もちろんあるき始めた道を戻ろうは思わない。
でも、少しだけ帰って、休みたかった。




命の無感情なやりとりが続く日々。
その中で大事な何かを見失ってしまいそうになる。

それは思った以上に神経をすり減らし、
感情を押し殺してしまわないと壊れてしまうほどにつらい日々だ。

だから、今日、あの二人と久しぶりに出会って本当によかったと思った。



不死者を毎日戦い屠っていく日々。
ここ数年僕がみていた以上のものを彼らは見てきたのだろう。

それでも、今でも二人は変わらず二人のままだった。


「……君たちのみているものの方が、とてもつらいものだろうに」

ぽつりとつぶやく。



もう少しだけ、完治が長引いて、
その分だけ、ゆっくり休んでほしいなと願い、
医道を目指すものとしてあるまじき事ではあるのだけれども、と、苦笑した。