日蝕、月蝕


今までこの日はロクな事がなかった気がする。
いや「気がする」じゃない。

絶対にロクな事はなかった。断言する。




つきはみ cast:ジャンゴ サバタ


日蝕の日、街を守る太陽樹はその力を一時的に失い
結果、そこを伯爵につけいられ、サン=ミゲルは崩壊し

ボクは今までの生活を、お父さんとお母さんを失った






そして前の月蝕の日、これも最悪だった
なにが最悪かってまず一回、ボクは命を落とした

そしてこれもまた奇跡の確立で
息を吹き返したのはいいけれど軽い記憶喪失になった

そして
ボクは「運命」というシナリオを演じ
対である「宿敵」を倒し


そして「家族」を、手にかけた







今思うと
あの瞬間に多分いくつかの未来の
分岐点があったような気がする

もし、タイムワープか何かであの時に戻ってしまったら
ボクはここと同じ選択、同じ未来には多分、

いや、絶対にたどり着けないだろう。

そういうifを考えてぞっとしつつ
改めて今ここに当たり前のように
太陽の精霊と双子の片割れがいることがどれだけ奇跡的な事なのか
思い知らされた










とにかく、こんな特殊な日はロクな事がない
100%自分の人生のトラウマワースト1と2を飾る出来事が
連続で起こっているわけで





だから、今回もまたやってくると予告されたその日がやってきた今
ボクの心中は穏やかではないわけで





















































「で?」


		「で?じゃないよ。どこか調子の悪い所とか
		幻聴とか聞こえてない?」





「さっきから何度同じ事を尋ねているんだお前は?心配しすぎだ。煩わしい。
まったく街のやつらといいお前といい
今日は外出するなと口を揃えるから
おかげで一日軟禁状態だ。
分かっているのか俺が今現在激しく迷惑しているという事が?」



		「…ご、ごめん」


「フン」





		「正直、怖くてさ、なんか幸せな日々はいつかかならず
		ひっくりかえるっていうじゃない?」







「そうなのか?初めて耳にする言葉だな」






		「だから、この上手く行き過ぎているこの一日一日は
		いつか最悪の形でひっくりかえる予兆なんじゃないかって
		だから正直今は、今自分の周りにあるささやかな日常を手放しで
		喜んで過ごしていいのかなって、不安になるんだよね…」









「最悪の事態を常に予想するのは大いに結構だが
それに飲まれて悲観的になる理由も価値もない。知恵熱もでるぞ?
いつものように生きていけばいい」





		「あれ?」




「なんだ?」








		「あのさ、サバタってそんなに、楽天的な性格だったっけ?」




「お前から楽天的といわれると腹がたつな…
ただ、仕方ない事、無駄な事に悩もうとは思わないだけだ。
お前こそ、そんなに悲観的な主観をもっていたか?」





		「いつもはこんな事悶々と考えないんだけれどさ…
		なんていうか…もうすぐ…ほら…月蝕だし…」







「…」


		「………」






























「ジャンゴ」







		「何?」






「今、俺がここにいる事そのものが、奇跡なんだ」
















「俺が今、ここにいる確立は、果てしなく0に近かった。
その0に近い確立の未来を掴み取ったのはお前だ。
お前が必死で望んで、動いて、戦って、諦めないで掴んだ世界だ。
だから、臆することなく享受すればいいさ」





「それに、守ってくれるんだろ?お前が」





		「…うん」






「守っていこうと、決めたんだろう?
この街も、この星の命も、そして、俺すらも」










		「…うん、決めた。ずっと前から、決めてた」






「だから大丈夫だ、今回は何も起こらないさ
何か起きてたとしてもお前がなんとかするから大丈夫だ」
(それだけの信頼を俺はお前に寄せているのだから)




		「だからその何かが起きるのが凄く嫌なんだって」




なにも起こらないさという、そして何か起きた場合でも
ボクがいるから何とかなるさという
根拠無き言葉に本当に楽天的だなと思いつつ



だけれど



その言葉に今日一日ずしんとおもりを沈めたような
悶々とした胸の内がほんのすこしだけ晴れていく自分も楽天的だなあって
苦笑いをするしかなかった。




























「街のやつらも、日蝕と月蝕の日は嫌いだとさ」


		「え、なんで?」


「お前がピリピリしていて怖いからだと」








		「…サバタ、もしかして、…誰かにボクの事、…頼まれた?」

「ああ、面倒くさい事に
リタとザジとスミレとスミスとレディとシャイアンと
キッドとエンニオとマルチェロとルイスから」



		「皆じゃないか」


「いつぞやの買出しの用聞きの時のように
別の場所でまったく同じように頼まれた」



「街の人間は、この日、俺もだがそれ以上に
お前の事を心配していたぞ。
先の月蝕の日、お前の精神状態も?相当酷い状態だったらしいじゃないか」




















「あ…、うん…」

この瞬間にやっとボクは
自身も周りに激しく心配を
かけてしまっていることに気がついた。





同時に一連のサバタの言葉は他のなんでもない
そんなボクへの説得の言葉だと今気がついた



「心配だ心配だと、自分は心配するだけの立場なのか?
同時に心配されている立場でもあると肝に銘じておくといい」




そういってサバタは席を立ち階段を上がっていった
残されたボクはまだ、椅子に座ったまま






「心配されている…か。ボクも」


反省しよう。自分ばっかり心配していると思っていて
結果周りにどれだけ心配させているか、気づかなかった事に





窓の外をのぞけば
太陽が沈みかけている

変わりに空にぽつんと浮かんでいる月は あの時と同じ紅い色
それを見ているとやっぱりいい気分はしないけれど

でも、綺麗だなとも、思った




2010/12/21:up