我輩はクロである。 けしてネコではない。 だがしかし、今の我が輩の少女は毎日夜に魚を一匹、餌として我輩に与え続ける。 今夜もそう、少女から我輩に支給されたのは一匹の乾燥保存された 小魚がパラパラとミルクの中に振りかけられた餌箱だった。 誤解を招かないように補足するが、けして不味いという意で不満がある訳ではないのだ。 味なんて贅沢な感覚、我輩の口の中には備わってはいない。 むしろ毎日安定して胃袋が満たされるこの環境はそう悪くはない。 なにが不満か、それは我輩がネコだと思われている事に、しかもそれはその少女だけでなく この街の人間のほとんどがそう誤解したままであり、街の外の人間も我輩をネコだネコだと指をさす。 だがしかしよくよく思い返せば我輩はにゃあにゃあと鳴く。 確かにそれは一般的にはネコの鳴き声なのだろう。そしてにゃあにゃあとしか鳴いた事がない我輩は ネコだと言われても仕方がないのだろう。 ならば、にゃあにゃあと鳴くのをやめればいいのだ。 解決法は簡単かつ単純なことだ。ワンワンとなけば犬と指指され、 ガオーと吠えれば獅子と呼ばれるのだろう。 よって我輩、ガオーと吠えてみることにした。 「にゃおーん」 「どうしたのクロちゃん?もうおなかがすいちゃったの?」 我輩はクロである けしてネコではない。