「あ」

食事の途中、少しだけシチューをこぼして
ジャンゴは小さく声をあげた。

あーあ、こぼしちゃった、もったいないなと
そんな事をぼんやりおもいながら、テーブルの上のふきんをとりこぼしたシチューをふき取った。

まあ、そんな何気ない事だった。
だが、向かい合い食事をしている同居人は
その一連の出来事が、どうも我慢ができなかったらしい。

はあ、とわざとらしく大きくため息をつかれた。

起きてまだ間もないせいもあり、
そのため息が凄く癪にさわったわけで。

「なんだよ」
「…テーブルマナーが、なっていないな?」
「うるさいなおいしく食べれたら
マナーは必要最低限のものでいいんだよ。」

ざっとこぼしたシチューをふきんでふき取り、
いったんそのフキンを洗いに台所へ、
あらって戻ってきたら、食事中に席を立つのも好ましくないなといわれたので、
別にトイレに席を立つ訳じゃないしいいじゃないと
口を尖らせて反論してみた。



苦笑するサバタ。




「…俺も、そんな風にいえてたらな、クイーンに」




「…厳しかったの?やっぱり」

テーブルマナー cast:ジャンゴ、サバタ



サバタには、ひどく思い出したくない食事の時間がある。

そう、まだひどく幼かった頃。
死の一族からまだまだ認めてもらえず、
拷問とさして変わらない修練と
迫害に近い扱いを受けていた頃。


物心ついた時から、暗黒銃を握っていた。
たえず訓練として、多くのアンデッド、スケルトンを相手にし、
戦闘というものをたたき込まれた頃。


布一枚だけあたえられ、砂漠を60日間放り出された事もある。
そんな自分の命を守り抜く術のみをたたき込まれてきた日々。










そんな日々は突然の終止符を打つ
そう、勉強と、礼儀、「教養」というものを教え込まれる日がやってきた。




「…わかるか?今まで銃を握らせてきた俺が、
ある日いきなりフォークとスプーンを握らされたんだ。」


紅茶のカップをもちゆらゆらわざとらしくグラスの用に
揺らしながら悪態をつきはじめるサバタ
「そ、そう…」
そんなサバタの表情が本当に、心底、嫌な顔だったので、それが少しおかしくて、
笑ってしまっているのに気づかれないようにごまかすように、水のはいったグラスに口を付ける。

「それまでその地その地で
食べることができる草やキノコとかを食いつないでいたんだが、
その頃から、…まともな食事…、以上のものをまあ、食べられるようにはなったのだが…」

「草…」
「そんな顔するな…食える草だ。
市場にもたまに販売してあるような」「う…ん。」





「だがな、正直なところ、
今まで好き勝手に調理して食べていた草やキノコの方が、よかった。」




「え、おいしくなかったの?」
「いや、味や素材は一流だったらしいが、味なんて楽しむ余裕なんて無かった、精神的に」






サバタが、ポツリとつぶやく。





「みているんだ。」
「え」






「だから、観察しているんだよ。
俺が食事をする動作の一連の動作の一部始終を。
クイーンが真ん前で、表情一つ変えずに、
無言で、ピクリとも動かず」










もういわれずとも目に浮かぶ。
真ん前にどんと座られ、ただ、ひたすら目の前の子供の食事の様子を監視し、
少しでも粗がみられれば無慈悲に揚げ足を取るように、そしてたまに
意地悪そうな笑みをうかべながら逐一ただされたに違いない。





「そ、それはイヤだ。単純に、すごくいやだね。」
「だろう?」
「今だからいえるが…あれは地味に精神的に苦しかった。」
「胃に穴があくね。ボクだったら」

だろうな…と、
そんなことはないなんて否定はしてくれず(しないとはわかりきっていたけれどもうちょっとさー)
サラダをパンにはさんで片手で肘をつきながらかぶりついていた。

「で、そんな教養あるはずのサバタ様が?
そんな食べ方どこで知ったのさ」


「イストラカンで野宿していたお前から」
「え、そんな事してたっけ?ボク」
「していたな」
サバタからいわれて必死にそんな事していたっけと
記憶を掘り起こしてみるが、どうも思い出せない。


「…なんであの頃のボクの野宿の様子を見てたのさ?」
「…散歩がてらに」「嘘つきだなあ。」
「だが、こうやって本当に美味そうに食べていた。
羨ましいとも思ったさ、…これも、今だからいえるがな」



「君からみたら、まだまだボクのテーブルマナーはダメダメなんだろうなあ」
「当然。100点満点中2点だな」
「……逆にその評価された2点が何なのか気になるよ…っと、ごちそうさまでした。」


パチンと手を合わせてジャンゴがごちそうさまといい、
そのまま自分の食器を流し場にもっていく。





「「いただきます」の挨拶に1点。
「ごちそうさま」の挨拶に1点。
…だな?」

食卓に残ったサバタは偉そうに採点をつけていた

2010/07/29:up