「申し訳ございません。」
「よい、サバタが反応できなかっただけの事だ。」



なんとバッサリな切り捨て方。
死の女王らしいといえばそれまでではあるが、







みえぬ心



 氷点下の闇の世界、その世界に在る荘厳な空間。その玉座の間。
その話し声は冷たい空間に響き渡っている。

話し声の主は人間ではない、更にいうのならば生物ですらない

それは朽ち果てた髑髏。だが朽ち果ててなお、その髑髏の召し物や振舞から
生前の面影がうかがえた。


そしてもう片方はこの、氷と闇の、死の世界を統べる女王。


「回復までにどのくらいかかるのだ?」
「容態が、安定するのに2週間ほど」
「長い。修練が遅れる」
「そう、もうされましても‥、完治するまでは最低でも半年は‥」
「半年だと?半年もかけねば癒えぬほどの大怪我なのか?」

「‥はい」

「黒ひげ」

ああ、この声のトーンは魂が底から冷えていく、
死よりも恐ろしい結末も覚悟しておかなければ、な

黒ひげと呼ばれたその髑髏がを眼球の無い眼窩を女王に向ける

「修練時に、誤ってサバタに大怪我を負わせてしまったと、
最初に報告を受けたのだが、「大怪我」の内容を詳しく問うてなかったな。」

「答えるがよい。どんな大怪我だったのだ?」











































「兄者ー!どうだった?怒られちゃった?」

「それは重症ではなく重体とよぶのだと、
‥これはサバタ様になにかあったら、間違いなく私の首がとぶだろうな」

「どうって事ないじゃん、首とばすぐらい」
「たとえの話だ、更迭とかも覚悟しておいたほうがいいかもな」

「なんていうか、生き物って脆いのかたくましいのか
よくわかんないものだよね、面倒臭い」


























 ひどく寒いのにパッカリと開いた傷口はやけに熱かった。
無造作に巻かれた包帯からにじみ出る紅色は寝具を汚し続けている


今までもどんなに苦しくても助けを呼んでも
誰も何も手を差し出してはくれなかった。
それに今回は自分のつまらないミスが招いた結果。
自業自得だと切り捨てられるのが当然。


ああ、きっともう俺はこのまま一人で死んでしまうんだろうな、
もうどうでも構わない、むしろこのまま終わってしまったほうが幸せだ

朦朧とした意識の中でそんな事を思いながら
どのくらいかの時間が経過していた。






最後に冷たい何かが、自分の額に触れたのを覚えている
その時、誰かが、自分の名前を呼んだような気がした。



















その後に、夢を見た
映像はない、
頭の中に音や声が響いている


「‥‥」
「‥では無い、‥‥は、よばせぬ。」
「‥‥のは、マー‥‥けだ」
なにかの機械音と聞いたことのない男の声と聞きなれた誰かの声だった










意識が戻ったとき、傷口の熱は収まっていた、
それに少し、驚いた記憶がある。

「意識がもどられましたか」
声をしたほうに頭を向けると、自分をこんな状態にした張本人がいた。
「‥よく、平然と俺の前に現われることができたな」
「それは不本意ですな、これは貴方様の注意不足の結果だと」
「フン」
視線を黒ひげから天井にむける、
「楽になりましたでしょう?さすがに命にかかわることでしたので
人間の医者のもとに連れて行き、適切な治療をさせて頂きました」

「お前らが?俺を医者に?」

「連れて行ったのは私たちではありませんが、誰かは秘密です。」

「余計なことを‥俺は誰の力も助けも必要ない‥」

「ああ、そういう心配は不要ですよ、大丈夫、
なぜなら治療費もろもろはサバタ様の御名義で
暗黒ローンからお借り致しましたので、サバタ自身のお力です。」

そうどこか愉快そうに語る黒ひげに、かるい苛立ちを覚えた。

2010/5/9:up